「死装束(しにしょうぞく)」というと、皆様、どんなものを思い浮かべるでしょうか。
地域や宗教によっても様々でしょうが、白い経帷子(きょうかたびら)で手には手甲(てっこう)、足には脚絆(きゃはん)…というのが、日本では一般的な気がします。
死装束といえば「幽霊」をイメージ
最近は天冠(てんかん)、頭蛇袋(ずたぶくろ)は着けないでお棺の中に入れるというケースが多いようです。経帷子で額に三角の布を頭に巻いて……となると、どうしても幽霊をイメージしてしまいます。日本画や浮世絵、コミカルなイラストなどでよく見る装束で、両手をダラリと前に揃えたポーズで描かれることが多いですね。
本格的な仏式死装束の経帷子には、帷子(単衣の着物)に経文が書かれたものがあります。この経文入り帷子が広まったのは鎌倉時代のこと。
生前の罪業を消し、よい菩提を得るために、僧侶に書いてもらったそうで、帷子じたいは、故人の親族の女性たちが集まって手作り――それもしきたりがあり、刃物を使わずに布を裂いて断ち、返し針をせず、糸に結び目を作らずに縫うのだそうです。
この世への執着を断ち、引き返すことなく、心安らかに極楽浄土へ旅立つようにとの願いを込めたとのことで、お見送りする親族にとっても、丹精込めた貴重な経帷子を用意することが別れの儀式、今でいうブリーフケアだったのでしょうね。
人気の死装束はワンピースやガウンなど
ところで現代では、宗教にとらわれない自由な葬儀が増えています。死装束にもバリエーションが出てきました。終活という言葉も広く浸透し、旅立ちの時を自分でしっかり考えておこうという動きが盛んです。イベントとしての葬儀の演出などもアイデアを練るようになった場合は、その舞台での〝主役″として、美しい晴れ着でお客様をお迎えしたいと思うのも極めて自然な発想です。
晴れ着としての現代の死装束を作るドレスメーカーやウエブショップなどが、全国的に増えています。そこでの人気の品は、女性の場合だと、白や淡いピンクなどをベースにしたワンピースあるいはガウンのようなものが多いそう。つややかなシルクやふわふわのオーガンジーをベースにした、気品あるデザインドレスの数々は、見ていると華やいだ気分になってきます。闘病による衰えを目立たせないように、首回りにリボンやレース、コサージュなどをあしらい、顔映りを華やかに仕上げるなどの配慮も行き届いています。そしてまた、死装束は、遺体への着付けとなるので、遺体の死後硬直などにも対応しやすい前開きで、ボタンやホック、ファスナーなどを使わず、火葬にも差し障りのないものになっているそうです。
死装束には心を尽くして
悲しい――しかし、悲しんでばかりはいられない。ここでしっかりしなければ……。というのが、古今到来、死装束を用意する人たちの共通する思いなのでしょう。
そこには、旅立つ人の尊厳と感謝、そして、残された人々の冥福を祈る心が共に込められています。