10月31日、渋谷。ここ数年、この日のこの場所に近づくのは、現代風傷メイクを施されたお化けたちである。老若男女が跋扈するこの日はハロウィンよりも、死者と生者が入り乱れる死霊祭と呼称する方が相応しいのではないか。筆者は実際にハロウィンの渋谷駅に赴いた経験がある。そこにはハロウィン本来の宗教的側面は面影も無く、もはやコスプレカーニバルであった。これならば死者の一人や二人混ざっていても不思議ではなく、むしろ彼らにとって居心地の良い環境なのではないか。
メキシコの死者の日
さて、上記で触れたように、死霊祭という祭事が世界には存在する。ハロウィンとは似て非なるもので、主にメキシコで執り行われている。死者の日と呼ばれる11月1日と翌2日に催され、親類や友人などが集い、故人へ思いを馳せる。死者の花とも呼ばれるマリーゴールドがモチーフの一つであるため、街には彩色豊かなマリーゴールドやパペルピカドと呼ばれる切り絵が至る所に飾られ、公園には露店が置かれる。11月1日は子供の魂が、2日は大人の魂が戻る日とされているため、供え物がチョコレートなどのお菓子からメスカルなどのお酒に変わっていく。
日本のお盆に近いが、あくまで楽しく明るく祝うスタンスであるのが特徴だ。死を恐れるのではなく、逆に死者とともに楽しく笑うという行事になっている。墓地はこれでもかと飾り付けられ、夜はバンドによる演奏も行われる。
楽しげな骸骨たち
昨年公開されたディズニー・ピクサー制作映画『リメンバー・ミー』をご存知だろうか。この映画は死者の日期間中のメキシコが舞台である。死霊祭についてはこの映画を見てもらえれば想像がつきやすいだろう。陽気でカラフルな「死者たちの世界」を舞台に描いた長編作品である。主人公の少年ミゲルはミュージシャンを夢見ているが、彼の一族には音楽禁止の掟が定められていた。ある日ミゲルはひょんなことから死者の国に迷いこんでしまう。ミゲルはそこで出会った骸骨のヘクターに協力してもらい、元の世界へ戻る方法を探るというストーリーとなっている。(映画.comより引用)
この映画からわかるように、骸骨も死霊祭において大切なモチーフである。街中にはユニークな骸骨のグッズが立ち並び、死者の日当日には人々が思い思いの骸骨メイクや仮装を施し街を練り歩く。
死に対するイメージ
この行事の特徴的な点は、死に対するポジティブイメージと言うことができるだろう。日本のお盆が先祖の霊を供養する行事の一環であるのに対して、死霊祭は死者の魂を外に出し、故人が好んだ物たちと供に楽しもうという催しである。死んだ後もそうして祝われるとわかっていれば、死への恐怖も和らぐ。楽しみを抱いたまま死ぬことができるのは、大変な幸福ではないだろうか。そうした余裕をいつでも持っておきたいものだ。