相続税対策として、最も効果的なものの一つに生前贈与がある。財産を所有している人が、生きている内にその人の相続人達に財産を贈与することだ。相続税は財産を所有する人が亡くなった時点にて、所有していた財産に課税されるので、亡くなった時点で所有している財産が少ない方が相続税は低額になるためだ。当然ながら贈与すれば、贈与された人には贈与税が課税されることになる。相続税について効果的な対策であっても、対応を誤ると大きなトラブルになる可能性がある。今回は贈与そのものについて触れてみたい。
贈与とは、贈与する側とされる側のお互いの理解の一致が必要
そもそも贈与とは何かと言うと、民法第549条に「贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」と規定されている。前述の内容にて当て嵌めてみると、財産を所有している人がその財産を無償で相続人達に与える意思を示し、相続人達が受諾することで贈与は効力を生むことになる。
贈与されたことを受諾者が納得していなかった場合は贈与は不成立
ここで問題になるのは、相続人達が受諾することにある。即ち、相続人達が贈与を受けますよという意思表示が無いと、贈与自体が法的に成立しなくなるのだ。一例を挙げてみると、財産を所有している親が金員の一部を自身の相続人である子供名義の銀行口座に入金した。しかし、子供はその事実を知らず、また入金の事実を知っていても面倒なので拒否し、返金したいと申し述べていた場合、この金員については全額名義預金、つまり事実上親が所有するものとされ、贈与とは見做されなくなる。こうなると相続税対策としては無効であるため、再度贈与をやり直すか別の手段を考慮しなくてはならない。
「書面によらざる贈与」も悪くはないが…
書面によらざる贈与という言葉を聞いたことが有る方は一定数存在するものと考える。具体的には、贈与は民法上諾成契約(二人以上の当事者の意思表示が合致することによって成立する法律行為のこと)であるため、条件さえ合えば口頭においても成立することになるのだ。これが書面によらざる贈与のことである。ただし、状況によっては当事者同士に著しい負担を強いるようなトラブルに発展することもあるため、書面によらざる贈与は各当事者において撤回(民法第550条)することができる。
法的に間違いないのは「贈与契約書」を交わすこと
では、相続税対策として有効な生前贈与を法的に成立させるにはどうしたらいいのか。それは、贈与契約書として書面におこせば良いのだ。つまり、当事者同士で贈与並びに贈与の受諾について、合意の意思表示を書面に記載した「贈与契約」を締結すれば良い。こうすれば、贈与そのものが無効とされることはなくなるので、相続税対策として有効に機能する。
ちなみに贈与契約書は撤回できる?
最後に付け加えるが、前述の民法第550条の規定を逆に解釈すると、書面によった贈与は一切撤回できないとも読める。しかし、安心して欲しい。最高裁判所にて過去の判例から、状況次第では撤回も可能とされている。詳細は税理士並びに弁護士と相談し、対策を講じていけば問題なく解決できるはずである。