同じ職場に、ネパールから日本に働きに来ている人がいる。来日して約3年、日本語学校を経て、日本の会社に就職した。その彼が、父親が亡くなったと言う事で、会社を2週間以上お休みした。日本からネパールまでの直行便は、今のところない。ただ、その事を考え合わせても、2週間以上というのは、忌引き休暇にしては長すぎるのではないか、と思った。上司の話によると、どうやらネパールのお葬式事情は、日本のそれとは随分違うようで、気になったので調べてみた。
ネパールのヒンドゥー教徒の葬儀
国境がインドと中国チベット自治区に接しているネパールは多民族国家であり、宗教も、ヒンドゥー教、仏教、イスラム教などが混在している。ここでは、ネパールの宗教の中で最も多くを占めている、ヒンドゥー教徒のお葬式を取り上げてみたい。
まず、葬儀は日本と同じく火葬である。火葬が行われる場所は、首都カトマンズにあるネパール最大のヒンドゥー教寺院、パシュパティナートの野外葬儀場だ。ガンジス川へと続くバグマティ川の河岸に建つこの葬儀場で、遺体は聖なる川の水で清められた後、荼毘に付される。3時間ほどかけて火葬を終えると、遺灰は川へと流され、バグマティ川を通って「川の女神」という意味を持つ、母なるガンジス川へと戻って行く。
これが、ネパールのヒンドゥー教徒の最も理想的な葬儀である。ただ、山間部に住むヒンドゥー教徒の葬儀は、また進行が違って来るようだ。そして、パシュパティナート葬儀場では近年、電気火葬炉も完成したらしく、今後はこの伝統的な葬儀の形も変わって行くのかも知れない。
様々な習慣と儀式
ヒンドゥー教徒の火葬は、喪主が海外在住などの特別な事情がない限り、死亡から24時間以内と非常に迅速に行われる。ネパールの喪の色は日本と違って白であり、喪主とその家族は白装束に身を包む。そして男性は髪を剃り、女性は普段は結っている髪を下ろす。喪主と家族以外の参列者については、特に服装の決まりはないようだ。
火葬が終わると、ここから様々な儀式が始まる。毎日ヒンドゥー教の司祭が家を訪れ、清めの儀式を行い、決められた食材のみを使った食事を取る。歌や踊りの禁止など、その他にも様々なタブーがあり、地域によって風習に差はあるようだが、このような生活を13日間続けると言う。そして、輪廻転生を願うヒンドゥー教徒に、お墓を持つ習慣はない。
「13日間の儀式」と知って、私は初めて合点がいった。職場の彼が、なぜ2週間以上も休みを取ったのかを。忌引休暇後、坊主頭で出社し、社員食堂でのメニュー選びに苦心していた理由を。
ネパールの今
現在、ネパールはアジア最貧国であり、成人の識字率は50%程だ。また、未だに身分カーストも存在している。近年、日本における外国人労働者のうち、ネパール人が急増しているが、それはやはり、国内に産業がないからだ。いわゆる「出稼ぎ」であるが、彼らに悲壮感は感じられない。仲間と助け合いながら日本で稼ぎ、ネパールに家を建てることに満足している彼らは、日本人より充実しているようにさえ見える。そして彼らは、今日もまた笑顔で職場へと向かうのである。