先祖を敬う文化のある日本にとって、お墓参りというのはとても大切な行事の一つです。ですが、現代を生きる日本人はお墓参りの作法を知らない、もしくは知っていても何のためにやっているのか理解していない方が多くいます。ここではお供え物の基本となる五供(ごく)、「香」「花」「灯燭」「浄水」「飲食」の5種類について説明していきます。
五供 その一 「香」
香とはお線香のことで、お墓参りには欠かせないものです。
お線香の香りで臭いを消し、俗世間で汚れた心と体を清めるという意味や、故人は香りを上等な食べ物として嗜むとされていて、お線香の香りは故人の食べ物という意味もあります。
また、お線香の煙があの世とこの世をつなぎ、仏様になった故人の心と通じ合うことができるという考えもあります。
五供 その二 「花」
花を供えることには「故人の苦しみを癒す」を初めとして多くの意味があり、さらに備える花自体にも意味があります。私の住んでいた地域では樒(しきみ)の葉を大量に供えていました。昔は土葬だったので、動物による害から守るために強い毒性を持つ樒が重要だったのです。今では動物ではなく、悪霊や魔除けの意味や、独特の香りから死臭を打ち消す効果があるとして供えられています。
五供 その三 「灯燭」
ろうそくに灯した火、明かりのことを灯燭といい、煩悩を消す光と言われています。
お線香に火をつけるためにろうそくを使うわけではなく、ろうそくに火を灯すこと自体が供養の一環です。火の後始末をする時に、ろうそくに息を吹きかけてしまうと、ご先祖様に向かって息を吹きかけていることになってしまうので、手であおい消すことがよいとされています。
五供 その四 「浄水」
清浄な水を供えることによって、お参りする側の心が洗われるという意味があります。浄水は故人の飲み物になるとされているので、他のお供え物より重要です。また、故人が好んだお酒などを墓石にかける方がいますが、墓石が痛んでしまうので器などを用意してそこにお供えしましょう。
五供 その五 「飲食」
食べ物を供えることを飲食(おんじき)と呼び、普段から食べているものや、季節にあった食べ物を供えます。食べられる状態にしておくことが望まれるので、袋などに入っている場合、取り出して懐紙の上に置くとよいとされています。宗派によって、飲食は実際に仏様が香りを召し上がっているという考えや、飾り物であるという考えがあります。
お墓参りにおいて最も重要なこと
お供え物の基本は五供ですが、必ずしもすべて行わなければならないわけではありません。やはり、一番大切なのは気持ちです。もちろん、最低限のマナーは守らなければなりませんが、お墓に参り、そして気持ちを伝えることに意味があります。
大層な供養ができないとしても、例えば水を変えるだけで、仏様は喜んでくださり、自らの心も浄化されることでしょう。