雪国では、本格的な積雪の季節が迫ってきており、北海道では平地の都市部でも普通11月の第1週ころに初雪が観測される。この時期に成ると道民は冬タイヤに交換する。春になると再び夏タイヤに交換するので、年2回重たいタイヤ4本と格闘しなければならないのだ。ちなみに根雪になると、野山は厚い雪の毛布の下で春まで眠りにつく。墓地も同じで、雪深い地域では積雪は墓石の高さを超えることもあり、一面の銀世界となるのだ。
春のお彼岸まで納骨を延期する雪国
納骨は、命日から35日目か49日目あたりに行うことが普通だろう。しかし、雪国では積雪がその時期に当たってしまう場合、春のお彼岸まで納骨を延期することが一般的である。お盆まで納骨しないこともある。それまでの間は、自宅にお骨をお祀りしておくこともあるが、多くはお布施をしてお寺に預かっていただく。
春のお彼岸は3月21日前後。陽光は春めいてきて、日当たりのよいところでは木の芽も膨らんでくる。墓の掃除も兼ねて、多くの人がお参りにやってくる時期だ。その日が大雪に当たってしまうと、墓参を延期せざるを得ない場合もある。
雪国ならではの墓参りのグッズ 雪かき一式
春の墓参りの必需品は、掃除のための雑巾、マッチやライター、線香、花などはどこでも同じだろう。雪国ではさらに、膝までの長靴、防寒着、手袋(防寒手袋、軍手、ゴム手袋を揃えておくのがお勧め)、帽子、2種類の雪はね(除雪)用のシャベル(軽い雪用と重い雪用)は絶対に必要だ。雪を払いのけるための毛の硬いブラシがあるとなおよい。ママさんダンプを持参する人もいる。ママさんダンプとは大量の雪を移動するために使う道具で、ブルドーザーのシャベルのような形状のものに持ち手がついた除雪道具である。
基本的に水とバケツは使わない。と言うよりは周りが溶けかけた雪だらけだから、水はたくさんあるし、そもそも、屋外の水道は「水を落としてある」ので使えない。「水を落とす」とは、気温が氷点下4-5℃以下になると、地上の水は凍結・膨張し水道管を破裂させてしまうので、寒冷地用の水抜き水栓のバルブを回して水道水の水位を地下に押し下げることを言う。その際、地上の水道管に水が残らないように蛇口を開けて排水する。屋外の水道カランは雪の重みで曲がってしまうので外しておくことも多いのだ。大きな魔法瓶でお湯を持っていく人もいる。墓標などにこびりついた氷を溶かすのに使うのだ。
雪国のお墓参りは、お墓までの道を作るところからスタート
お墓参りや納骨にあたっては、まず、自分たちの墓にたどり着くために道を造らなければならない。厳冬期と比べると雪は幾分ゆるんできている。その分、水を含んだ重たい雪だ。それゆえ、これが結構な大変なのだ。大きな霊園では主要通路の除雪は機械で行ってくれるところもあるが、墓と墓の間の細い通路はシャベルで雪かきだ。どけた雪を他の人の墓に置くことはできないから、周りの墓や人の通行の邪魔にならないところまで地道に運び出す。3月末になると少し雪が融け始めるので墓石は頭を出しているが、それでも墓全体は、1m程度雪に埋もれている。
3-40分も雪かきをしていると、じっとり汗ばんでくる。雪が少ない年だと、割合早く片がつくが、雪が多かったり硬かったりすると、お墓をすっかりきれいにするまで1時間くらいかかってしまう。タイヤ交換と同様、これまた重労働なのである。だから、年配者には雪中のお参りや納骨法要は負担が大きすぎる。冬期に行うはずの納骨をお盆まで延期というのもうなづけよう。雪国では墓参のありようが積雪で規定されているといえるだろう。そんな雪の季節がもうすぐやってくる。