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人や動物だけでなく、物にもお墓や供養が存在する理由とその起源

2004年に、当時ケニアの環境大臣だったワンガリ・マータイさんが環境分野並びにアフリカ女性としては初のノーベル平和賞を受賞した。それは植林運動を通じて、ケニア国内の環境保護と民主化に取り組んだ功績を讃えたものだった。そのマータイさんが翌年2月に来日した際、日本語の「もったいない」が、資源の有効活用の3Rこと、Reduce(廃棄物の発生抑制)・Reuse(再利用)・Recycle(再資源化)を一言で表す言葉であり、更に命の大切さや、かけがえのない地球資源に対するRespect(尊敬の念)という意味も込められていることを知り、環境を守る国際語「MOTTAINAI」として世界に広げることを決意したという。

人や動物だけでなく、物にもお墓や供養が存在する理由とその起源

もったいないと思うのは、そのものに思い出が残っているから。ところが…

その「もったいない」だが、昨今の日本では、「断捨離」「片づけ」もブームである。いかに余計なものを自分の身の回りから減らし、すっきり片づいた空間で生活することで、心の平安を図る。今までの人生やライフスタイルを「リセット」することも提唱されている。

臨床心理学を学び、テレビや書籍、各種の講座などで禅の思想や心のありようを説く、広島の曹洞宗普門寺の吉村昇洋副住職は、禅の修行について、「すべての行為を今この瞬間の体験として、自分の思いに左右されず、心身の力みを手放して自然に身を任せ、ていねいに行じ切ること」と言う。そして「もったいない」と思い、「思い出の品」などの物を捨てられない、そして使っていないものが大量にため込まれてしまっていることについては、ある種の「とらわれ」と説く。つまり、「これは私にとって大切なもの」と思う時には、ものに「私」が入り込んでいる。長く大切にしているものならば、「私」が隅々まで入り込んでいることになる。そうなると、ものを捨てるのは、自分の一部を捨てるように感じられてしまうため、抵抗があって、捨てられない。

ものは所詮ものでしかない。思い出は自分の頭の中にある。

しかしよくよく見れば、ものはただのものでしかなく、「私」はどこにも入っていない。ものの価値は自分が勝手に付け加えているだけ、ということになる。そもそも「思い出」はものに依存するのではなく、頭の中にあるわけなので、ものを捨ててしまっても、思い出そのものがなくなってしまうわけではない。

禅寺では、余計なものはない。修行僧の持ち物も制限されている。僧たちは修行の中で「ものが置かれていない空間」に慣れることで、自然と「すっきり」を保てるようになる。逆に、ものを置き始めると、それに慣れてしまう。その上に更にものがプラスされていく。その結果、ものが大量に溜まり、あふれ返っている状態に慣れてしまう。それゆえ吉村副住職は、「片づけ」を習慣づけるには、余計なものがない空間に慣れることから始まるとアドバイスしている。

「もったいない」を断ち、「断捨離」「片づけ」を心がけねばと、わかっていても、「片づけ」が苦手な人には、なかなかできないことである。思い切って片づけたはいいものの、うっかり間違えて、捨ててはならない大切なものを捨ててしまっていたことも多々ある。それが怖くて「捨てられない」となると、吉村副住職が指摘するように、部屋の中にものがあふれ返ってしまうのだ。

「もったいない」の起源は?

そもそも日本人がものを「もったいない」と思うのは何故だろうか。それは主に室町時代に世間に広く信じられた「付喪神(つくもがみ)」の存在が大きいと考えられる。

付喪神とは「もの」に「憑(つ)く」と、「つくも」、すなわち「九十九」と語呂合わせになっている。つまり、「九十九」とは、百に一足りない数のことだが、それほどまで長く使われた道具が妖怪化し、「付喪神」になると考えられていた。

例えば平安時代末期に成立したとされる『今昔物語集』巻27、第6「東ノ三條ノ銅ノ精、成人形被掘出語(ヒトノカタチトナリテホリイダサレタルコト)」において、以下の話が記されている。

醍醐天皇の第四皇子・重明(しげあきら)親王が京都の東の三條に住んでいた時、南の山に、背丈が3尺(約114cm)ほどの、五位の貴族のなりをした太った男がたびたび現れるのを見かけた。それを怪しんだ親王は、有名な陰陽師を招いて占わせたところ、「これは物の怪だが、人に害をなすような物ではありません。辰巳の角の土の中にいる」と言った。早速親王は辰巳の角を掘らせたが、何もなかった。そして更に占わせたところ、「ここ以外のところにはいない」と陰陽師は強く言う。それで同じ場所を更に深く掘ったところ、5斗(約90リットル)ほど入る銅の提(ひさげ。形はやかんに似た、酒や水を注ぐための器)が出てきた。提が掘り出されてからは、五位の貴族のなりをした男が現れることはなくなった。その後、物の怪が人の姿になって現れることがあるのだと、人々は語り伝えたという。

三味線供養や針供養、そろばん供養などものにも魂があると信じられていた

このように、人や動物ばかりではなく、「もの」にも魂があると人々に信じられたエピソードは、時を経て、壊れてそのまま放置されたり、埋もれてしまった器物が夜な夜な跋扈する話を描いた『付喪神絵巻』(16世紀)などに表現された。そしてそれを恐れた人々によって、「針供養」「そろばん供養」「三味線供養」など、古くなったものを捨てる際、もう使えなくなったものだからと、ただ捨て去るのではなく、僧侶を呼んで、読経を上げてもらう。または碑や塚などをつくって、その下に埋めるなどの習俗が今も残っている。それは、医用生体工学者の依田賢太郎によると、日本人はもともと、身近なものに心を通わせる文化を持ってきた。そのことから、道具に使った人の霊が乗り移ったり、道具そのものに霊が宿ると信じられてきた。その結果、道具を粗末に扱うことで祟りなどの災いが及ぶことがないよう、寺社などの宗教者の勧めで、鎮魂儀礼を行うようになったことが始まりの要因だと述べている。

こうした供養の習俗は、近代以降は、建立契機や建立主体も多様化し、神道式、仏教式にこだわらず、また、広く社会に知られることなく、関係者のみの「供養祭」「慰霊祭」などの形でなされている状況だ。

東京品川区には包丁のお墓「包丁塚」がある

東京品川区には包丁のお墓「包丁塚」がある

例えば東京都品川区北品川3−7−15の品川神社内には、「包丁塚」が存在する。1976(昭和51)年に建立された、高さ113センチ、幅83センチの自然石から成るこの塚は、碑文によると、品川区鮨商環衛組合連合会発足25周年を記念したものだ。そして、東海道第一の宿場町として大いに栄えた品川の地において、調理に使われ、使い古された包丁を納め、その労をねぎらうと共に、包丁によって調理された、あまたの鳥獣魚介や野菜類を慰霊し、併せて業界発展、連合会の隆盛を祈願している。また塚の隣には、1986(昭和61)年に建てられた、「包丁塚建立十年祭」の碑も存在する。

品川神社内の包丁塚は「自分の使い古しの包丁」を納めたものではないため、神社を訪れた多くの人々が足を止め、祈りを捧げるモニュメントではなく、誰も気に留めず、関係者のみが祈りを捧げるものとなってしまっているのが現実だ。しかしそれでも、「包丁塚」が品川神社内に存在する「意味」がある。それは江戸期の「品川」、そしてそれが今日もなお、形や状況は変わっても、「品川」という「場所」の特徴を物語るものとして「歴史の証人」の役割を果たしているのだ。例えば葛飾北斎の『冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二』(1831頃)を見て、北斎が描いた往時の品川、そして北斎の才を満喫しながら、「あの頃」があったから、「包丁塚」につながっているのだと人々の想像力を喚起させうる力があるのだ。「品川」が「東海道第一の宿場町」ではなく、例えば人形を作る「職人の町」としての伝統を古くから有していたとしたなら、「人形塚」、または人形をつくるために使った工具などを供養する塚が、土地ゆかりの神社に建てられていただろう。

昨年3月には福岡県朝倉市で「時計供養祭」が行われた

また、昨年の3月6日に、福岡県朝倉市の恵蘇(えそ)八幡宮では「福岡時計職人の会」主催で、全国初の試みとして、「時計供養祭」が行われた。それは恵蘇神社では、日本で初めて漏刻(ろうこく。水時計のこと)をつくり、宮中に時を知らせたという天智天皇を祭神としていることから来たものだ。この供養祭が行われる状況は、先に挙げた、「品川」という「場所」を鎮めている品川神社に、その「場所」で栄えた産業を影で支えた包丁を供養することとは、逆パターンになる。しかも恵蘇神社の時計供養祭の場合は、ただ関係者のみを対象とした儀礼ではなかった。思い出が詰まっているため、なかなか処分できない、またはどう処分すればいいかわからないまま、家に放置されたままになっている古い腕時計・掛時計・置時計を供養に供することを、広く多くの人々に呼びかけたのだ。そして、そのような古い時計類をただ供養して「おしまい」ではなく、供養の後、使える部品を再利用することを約束してもいる。これはまさに、マータイさんが提唱した、環境保護に即した国際語としての「MOTTAINAI」と、日本の古くから今日に至るまで続けられてきた習俗が融合した事例と言えよう。

「もったいない」とは溜め込むことではなく、思い切って捨てること。そして感謝すること。

「もったいない」を、ものを溜め込むのではなく、思い切ってものを捨てる。そこで捨てるものに心を寄せ、今まで自分の役に立ってくれたことに感謝し、手厚く供養する。その後、吉村副住職が言う「すっきりした生活」を実践すること。そのために「包丁塚」のような、器物の供養のための塚や、全国津々浦々で催されている様々な道具類の供養祭があると筆者は考える。

参考文献・サイト

『日本古典文学大系〈第25〉今昔物語集4 (1962年)』 岩波書店
■品川区教育委員会(編)『品川区史料 7:石碑』1994年 品川区教育委員会
■「冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二 葛飾北斎」 品川インターネット美術館』 
■『日本の神仏の辞典』 大修館書店
■「資源有効利用促進法」経済産業省』2006年 
■『どうぶつのお墓をなぜつくるか ペット供養の源流・動物塚』 2007年 社会評論社
■「付喪神絵巻」 国会図書館デジタルコレクション2011年 
■「魚類の供養に関する研究」東海大学海洋研究所(編)『東海大学海洋研究所研究報告』第32号 2011年(53−97頁)東海大学海洋研究所
■『オレンジページムック 心のもやが晴れるそうじと片づけ 禅に学ぶくらしの整え方』 2016年 株式会社オレンジページ
■「時計に感謝し思い出に感謝する『時計供養祭』のお知らせ」『まちの専門家を探せるWebガイド マイベストプロ 福岡・佐賀』2016年3月9日


ライター

鳥飼かおる

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