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死体写真は残酷なのか

インターネットの普及によって今日の我々は、血まみれ、そして人の原型をとどめないほどの無残な死体写真を見ようと思えば、いくらでも好きなだけ、見ることができる状況になっている。

1981年に創刊され、現在は休刊中の写真週刊誌『FOCUS』(新潮社)に、「死体写真」を掲載した写真家がいた。バブル経済に向かいつつある、高揚した1980年代の日本が「捨て去ろうとしているもの」を写した『東京漂流』などで知られる藤原新也(1944〜)だ。

死体写真は残酷なのか

旅館を営んでいた藤原の実家

藤原は福岡県・門司(もじ)にあった旅館業の家に生まれた。その旅館は、九州と本州を結ぶ重要な港・門司港の主管道路に面した、古い数寄屋造の大きな建物だった。しかも藤原にとっての「家」、「旅館」は、単なる建物としての「家」、「旅館」を超え、藤原を包み込む「母胎」のような存在だった。それは藤原が、複雑な光と影が日々変化していくこと、多くの見知らぬ人が出入りすること、客が出て行った後、部屋に様々な匂いが漂っていること、季節の変わり目や風の日に、家のほうぼうできしむ音がすることなどに強い愛着を持っていたからだった。それゆえその「母胎」が1960(昭和35)年、彼が16歳の時に、関門海峡トンネル建設に伴う区画整理のために取り壊されることになったのは、実に衝撃的な出来事だったのだ。大きな旅館がショベルカーで壊されているとき、藤原には、「家に宿っていたさまざまな精霊」と思しき、象、鳥、犬、豚、猿、狐、鹿、鼠、ヤモリ、虫の声が『聞こえて』いたという。幾らかの補償金をもらい、両親は別の場所に旅館を開いたが、大きな借金を抱えて倒産。そして一家は九州各地を転々とする羽目となった。

そんな藤原だったが、東京芸術大学油絵科に進学。しかし藤原は「母胎」を喪失した10年後に、東京を含む「日本」と大学を捨て、アジア各国へ旅立つことを決意した。およそ13年のアジア彷徨は藤原にとって、日本列島各地で失われた「アジア」への個人的な恢復だったと、後に振り返っている。

死体写真を撮った藤原

1973年、藤原はインドのガンジス川で撮影した写真を、当時連載を持っていたグラフ雑誌に掲載しようとした。しかしそれはボツになってしまった。それは、野犬が死体を食っている、「残酷」な写真だったのだ。

ボツになった理由として藤原は、そのグラフ雑誌で3年前に掲載された、ベトナム戦争末期のベトナム兵の無残な死体写真が世間から大きな非難を浴びたことがあったためではないかと推察していた。しかし藤原としては、ベトナム兵の死体とインドの死体とは根本的に異なる。前者は異常(アブノーマル)であり、後者は正常(ノーマル)であると主張する。何故なら「インドは仏教が起こった国だ。仏教を単純に言うなら、『自然主義』である。『自然主義』とは、万物自然の中にある道徳律に順応した社会生活を送るための方法のことだ。工業国となった日本では、インド的な社会生活が営まれることはないが、インドでは、生きとし生けるものが墓を持たないように、人間も墓を持たない。死ねば焼いて灰を川や海に捨てたり、鳥に食わせたり、時に死体をそのまま川に流してしまう。つまり自然に還すのだ」。藤原にとって、人間の死に対するインド人の態度は実に感動的で美しいものだった。そして死体が野犬に食われているのは、れっきとした「宗教現場」でもあった。それゆえ、野に咲く花を撮影するように、野犬に食われる死体、死体を食う野犬を撮影したのだった。

ボツにされた死体写真をなんとか世にだそうと考えた藤原

ボツになったその写真を、藤原は何とか野犬のように世に「放そう」と、ずっと考えていた。藤原は過去、自分が撮影した写真にこだわるつもりは全くなく、むしろ「古雑巾」と同じだと捉えていた。そのため、過去のフィルムは埃だらけになってしまったり、時にカビが生えて使い物にならないこともあった。しかしこの写真だけは違った。「人を犬が食っている」という事実があったということは、一向に古くならないどころか、藤原の世界観を構築する、潜在的な「基準」となっていたからだ。

しかも藤原は、この写真に写されたものが必ずしも、日本人の持つ「肌合い」や伝統にそぐわないものではないとも考えていた。それは中世期の仏教絵巻などに、人の屍を食う野犬の絵が描かれていたこと。そして「白骨観」という、屍を何日も観想することで悟りを得ようとする仏教の修行も存在していたためだ。

ネガティブな要素は一切削除。見て見ぬふり。

しかし、この写真がボツになった1970年代から遡ること10年前、1960年代に始まる、日本人にとって日常的環境となったコマーシャリズムによって、「野犬に食われる人」のような「死」の「残酷」さ、無駄なもの、汚物・異物を隠蔽するようになっていったと藤原は考察した。

1960年代のコマーシャルは、大衆の「モノ」への欲望に対応した商品連呼型だった。70年代になると、人間の疎外が浮き彫りにされ、人間関係にシラケと寂しさが覆い始めると、「愛とふれあい」「優しさ」希求型が基調となった。そして80年代になると、「文化」を語り始めた。

コマーシャルが描き出そうとしている世界では一貫して、人間とその生活のネガティブな要素は一切削除される。人の喜びの表現はあっても、怒りの表現はまず、削除される。そしてまた愉楽の表現はあっても、哀しみの表現はない。怒りや哀しみが排除されているわけなので、それらよりももっと激烈な死や狂気が描き出されるはずがない。

人生は楽しいことや嬉しいことばかりではない

確かに、人間は誰しも喜び、楽しくやっていきたい。しかし喜びと楽しさだけが存在し、怒りと哀しみの欠落した人間は、自分がいる世界の他方の極を見つめる五感が退化しているという点において、ある意味「偏って」いることになる。そうした人間は、喜びと楽しみのみならず、怒りと哀しみを有した人間の全体像を把握する能力を失い、コマーシャライズされうる価値以外の価値に対する理解を欠落させていき、やがて喜びや楽しみ以外の「不可解なもの」に敵意を持ち始め、それを抹殺しようとするかもしれない。しかもこのようにコマーシャルのイメージバリューに自らを模倣させていった人々は、80年代、さらに次の年代においても、大衆の覚醒がない限り、模倣され続けるだろうと、藤原は強い危惧の念を抱いた。それはその当時、小学生の女の子が、「人間くさいという、その人間の匂いとは、どのような匂いですか?」と真剣に質問を投げかけていたこと。そして、たまたま老人施設から遊びに来ていた祖父が、程なくして亡くなってしまったとき、祖父の死に顔を見た孫が、「おじいちゃんが汚くなっちゃった」と語っていた…など、「今どきの子ども」の事例が、新聞で取り上げられていたことを藤原が目にしていたこともあるだろう。

遂に死体写真を掲載できるようになったかに思えたが…

そうした社会の空気に敏感な藤原はとうとう、創刊してあまり時が経っていなかった『FOCUS』、1981(昭和56)年12月4日号において、当時NHKの人気番組『シルクロード』、そして「文化」を語り始めたコマーシャルの最先端を行く酒造メーカー、サントリーの「夢街道」シリーズに挑戦した。

「ヒト食えば、鐘が鳴るなり法隆寺」のキャッチコピーを添え、「ヒトとは犬に食われるぐらい自由な生き物なのだ」というメッセージを込めて、ウイスキー広告のレイアウトそっくりそのままの、通称「偽シルクロード」を掲載しようとした。しかし藤原の目論見通りにことは運ばなかった。ウイスキー広告風のレイアウト部分がカットされた形で掲載された。それをもって藤原は、『FOCUS』から手を引くことを決断した。

現在にもしも死体写真が公開されたら、どのような反応になるだろうか

現代の「何でもあり」の状況で、藤原新也の「人を食らう犬」の写真は、当時ほどの衝撃を世間の多くの人々に与えるだろうか。逆に今は、コマーシャリズムによる異物・汚物の排除がすっかり浸透している状況であるため、当時以上の驚きと拒絶感をもたらす可能性もある。ただ言えることは、現在の日本社会の葬儀のありようとは全く異なるインドの「やり方」のみならず、「インド」並びに「インド人」をも、禍々しい異物・汚物ととらえて、「自分から遠ざけてしまいたい」という敵意や排斥の念を持つのではなく、自分は「屍を食らう犬」を見たくない。自分自身や自分の身内の葬儀をそのようにしたくない。だが、インドで長く続く風習に対しては、最大限の敬意を払う、という気持ちを持つことが肝要だろう。

死体写真を見た時に一方的に残酷だと決めつけずに文化や慣習、宗教、地域、民族の違いを受け入れられるだろうか

しかしそこで難しいのは、日本国内の清潔で安全な場所で、藤原が撮った「屍を食らう犬」の「残酷な」写真を目にしたときには、「文化の多様性」、「ちっぽけな人間という存在」、「諸行無常」などに深い感銘を受けたとしても、たまたま自分が住む街、電車の中などで出くわしてしまった「インド人」が「自分たちと違う」ことに対して、そのように「寛容」な気持ちでいることができるだろうか。国や地域、民族によって人を差別したことがない、これからもそうだと自負している人ほど、気をつけたほうがいいと、筆者は思う。

昨今の日本は、大晦日の除夜の鐘がうるさい!盆踊りの音楽がうるさい!自分の周りの誰々さんから漂う加齢臭や、たばこの匂いがたまらない!吐きそうだ!というほど、藤原がこの写真を『FOCUS』に掲載した頃からは想像も及ばないほどの、超潔癖社会だ。そうした「空気」の中に在る「自分」は、果たして「差別」などは決してしない、「人の多様性に寛容」かどうか、問い直したほうがいい。

藤原の写真に「撮られたもの」が「自分たちと違うインドのこと」ではなく、「自分」または自分の「身内」のこととして目の前に「在る」としたら、どう感じるのか。野犬に食われる屍は野犬のなすがまま、体をバラバラに引き裂かれ、人としての原型をとどめない無残な状態になる。そして屍を食らう野犬は、それを見つめる我々を一顧だにせず、ひたすら屍をむさぼり食い続ける。それらの厳しい「現実」は、1980年代から今日に至るまで、「優しい」日本人が抱いてきた「自負」や「感動」が何の意味もない、上っ面のキレイゴトでしかないことを、無残で冷酷な形で示してくれるからだ。

参考文献:東京漂流

ライター

鳥飼かおる

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