人によっては、踏んだり蹴ったりの状況になる相続がある。それは、被相続人に愛人が居て、その愛人を受取人とし、被相続人が契約者として生命保険契約を締結していた場合だ。
被相続人が男性であれ、女性であれ前述の要件に該当すれば悲惨な状況を招く可能性がある。
生命保険金は相続税法上、「みなし相続財産」として相続税の計算対象となる
生命保険金は、契約内容にもよるが被相続人が亡くなった際に、一定金額が保険金受取人に支払われるものだ。ここで注意して欲しいのだが、生命保険金は厳密に言えば相続財産ではなく、契約上の保険金受取人の固有財産である。従って、生命保険金は遺産分割の対象にならず本来の受取人に全額支払われることになる。
だが、相続税法上相続財産と見做される「みなし相続財産」として、相続税の計算対象となってしまうのだ。
つまり相続人が払う相続税が増える!
では、何が悲惨な状況なのかと言うと、結論を言えば相続人達の負担が増大する。即ち、相続税額が増額することなのだ。そして、愛人以外の相続人は生命保険金を受け取ることができない。どいうことかと言うと、先ず愛人は相続人ではないということ。可能か否かは別として、被相続人と愛人が養子縁組をしていれば話は変わるが、被相続人と愛人には血縁関係がないので、当然愛人には相続権はない。これは、生命保険金額の分だけ相続財産が増加しているのにも関わらず、相続税の基礎控除額には何の影響もないということになるため、相続税が増加することを意味する。
更に、生命保険金控除についても同様のことが言えるため、二つの相続税控除額の規定が利用できなくなる。無論、生命保険金の受取人として契約を締結していない相続人には、当然生命保険金は受け取れない。
ご遺族としては愛人が居ただけでも立腹されるだろうが、更に相続税まで増額するとなれば、ご遺族の心情は痛いほど理解できる。しかし、心苦しい限りではあるが税法上の規定のため、どうすることもできない。
相続人に迷惑がかからないような終活を心がけて
最も悲惨な状況になると、愛人の存在や生命保険金の受取りを一切知らずに相続の手続きと、相続税の申告並びに納税が済んだ後、税務署の税務調査で愛人が生命保険金を受取った事実が発覚した場合だ。通常だと生命保険会社は、生命保険金の支払いについて、明細書を契約上の生命保険金の受取人と税務署に送付する。被相続人と相続人達には明細書の送付はない。税務署は被相続人が契約し、愛人が受取った生命保険金の存在を知っているが、相続人達は知らないことになる。事実を知らないまま申告しなかったが故に前述のような問題が発生するのだ。結果はどうなるかと言えば、多額の延滞税と過少申告加算税が課税されることになる。状況によるが、利子税も課税される。
愛人関係については、あくまでも個人の問題であると筆者は考える。安全かつ安心できる終活をしたいと思うならば、残された家族のことを考えて事前に対策を練って置くべきであろう。