相続税の節税対策として重要な生命保険。更に、生命保険は相続税の納税資金としても重宝する。しかし、誤った対応をすると極めて重い負担になる場合がある。
生命保険を契約する際には、十分検討し内容を良く吟味しつつ、納得がいくまで保険会社の営業に説明して貰うべきだ。今回は、生命保険について誤った契約をすると大変なことになる事例を挙げてみたい。
子供ではなく配偶者のみに保険金の受け取りを指定
W氏は賃貸用ビルディングを複数所有する資産家だ。貸ビルの他にも月極めの駐車場も複数所有しており、それらを管理する会社の社長でもあった。しかし、W氏は先天的な心臓疾患を持っていたので、いつ心臓発作で倒れるかもしれない自分の身を慮って、相続税の節税対策に余念が無く、しっかりと対応されているように見え、筆者や上司もある程度安心していた。
それから程無くしてW氏は心臓発作で亡くなったのだが、相続の手続きを進めて行くうちにある懸念材料がでてきたのだ。
W氏は生前に生命保険を複数契約し、保険料を支払っていた。そして死亡保険金の受取人は、全てW氏の配偶者だったのだ。W氏の死亡時にはW氏の子供達は未成年であり、W氏の希望を酌んで死亡保険金の受取人は配偶者としたのだった。懸念材料というのは全ての死亡保険金の受取人を配偶者としたことだ。
二次相続時にそのまま課税対象となってしまう生命保険金
懸念材料となった理由は、W氏の死亡後に配偶者が憔悴してしまい、持病の糖尿病が悪化してしまったためだ。配偶者の糖尿病は、配偶者が足の痛みを訴えて急遽入院するまで、筆者や上司は知らなかったのだ。後にW氏の子供達から、配偶者の糖尿病については秘匿しておくようにと、W氏ご夫婦から言われていたらしいことを聞いた。それが問題だった。何故かと言うと、二次相続(相次相続)の可能性がでてきたからだ。
最初の相続から短期間(数年)で開始する相続を二次又は相次相続と言う。W氏の場合だと、W氏が亡くなってから数年以内に配偶者が亡くなった場合にはそうなる。そして、実際そうなってしまった。W氏の相続において相続税が発生したが、事前の対策により効果のある節税ができた。配偶者の相続ではそうはいかなかった。特に生命保険の死亡保険金の受取人を配偶者としていたことが大きく、死亡保険金そのものが配偶者の財産であるため、配偶者の死亡時の相続では莫大な相続税が課税されてしまった。過ぎたこととはいえ、筆者には反省しきりだったが、対策としては、配偶者一人を死亡保険金の受取人とせず、未成年であれ子供達を受取人とすれば、ある程度の負担軽減にはなったはずなのだ。
「とりあえず生命保険にはいってるから安心」ではダメ!
相続税とは生きている人が居る限り発生する。自分達家族の構成、資産状況、健康状態等を鑑みて事前に対策を練っていけば、対応するのはそれ程困難ではない。生命保険は対策としては効果が高いが、前述のような問題も内包している。
契約前に税理士やファイナンシャルプランナー等の専門家に十分に相談し、自分達に一番有利な方法で契約し、節税対策をとって欲しい。