2018年8月に興味深い数値が発表された。日本における家庭内金融資産は、高齢者が保有するものが殆どなのだそうだが、認知症に罹患している高齢者が保有する金融資産が、2017年では143兆円と試算されるとのことだった。1995年で49兆円であったので、22年間で約3倍も増加していることになる。更に、2030年では215兆円に達すると試算され、日本の国家予算の倍になってしまうらしい。このような金融資産はどうなるかと言うと、所有者自身が亡くなるまで凍結され、配偶者や家族には相続時に分配されることになる。
成年後見制度も悪くはないが…
ここでよくトラブルになっているのが成年後見人制度だ。認知症になってしまうと、正常な判断が困難となるため、弁護士や司法書士を成年後見人として当該認知症患者の保有する財産の管理保全を行う。
何がトラブルになるのかと言うと、当該認知症患者本人並びに配偶者、同居している家族の生活費が大きく制限されることになるからだ。成年後見人は、依頼された財産の保全を中心とした業務を執行するため、生活費を制限させることで財産の保全を図る。そうなると、患者本人とその家族達の生活にも支障をきたすことになりかねない。他に成年後見人への手数料も高額になる可能性もあり、そちらも問題になることが多いようだ。問題の本質は、認知症に罹患してから亡くなるまでの資産管理であると考える。
近年注目を集めているのが家族信託
前述の問題を踏まえて、最近注目されている資産管理の手段がある。それは家族信託だ。
家族信託とは、資産を有する者(委託者)が信頼できる他の家族に自身の介護の為等の目的で資産の所有権を移転(委託)し、所有権を移転された家族は(受託者)は移転された資産を管理処分することを言う。家族間でのことなので、通常ならば委託された家族が、資産の管理処分にて得られた利益を受ける(受益者)ことになるため、手数料は発生しない。
家族信託のメリットとデメリット
家族内にて実施するか、信託銀行等の金融機関で実施するかにもよるが、幾つかメリットとデメリットを挙げておこう。
メリットは、資産を有する者の体調や判断能力に左右されずに資産の管理処分が適正に実施できること。成年後見人制度の代用として家族の意思に則った柔軟な運用が実施できることが挙げられる。
デメリットとしては、家族信託の実務に詳しい専門家の数が少ないため、相談しようとしても長期間待たされることが多い。金融機関に家族信託を依頼した場合だと、手数料が高額になる可能性があることが挙げられる。
認知症患者の資産管理「成年後見制度」と「家族信託」
成年後見人制度と家族信託、どちらを選択するかは個人の自由である。自分達に合った対策としてメリットとデメリットを見極め、確実な対応を実行していって欲しい。